元看護師の主人公、栗原茜が人里離れた不気味なお屋敷で出会った妃倭子さんという女性。
【屍介護】というタイトルからあなたはどんな結末を想像しますか?
看護師の経験がある私も、序盤では主人公と同じ、
妃倭子さんに対する【本当に●●●いる?】との疑いを持ちました。
その疑いを持ちながら読み進めていきましたが、途中から【あれ?こんな展開?これが答えなの?】と驚きを隠せないまま、ゆっくりと終盤へと向かったのです。
この記事では、妃倭子さんの本当の姿、序盤では想像できなかった意外な物語の結末をお伝えします。
屍介護のあらすじ

この物語は、元看護師だった主人公の栗原茜が、看護師経験を活かしながら介護業界へと新たな人生を踏み出す決意をしたところから始まります。
茜は過去にトラウマを抱えており、それを乗り越えて人生をやり直したい一心で、この仕事を選びました。月収40万で住み込み、そんな条件を提示した【訪問介護ひだまり】に入職したのです。
彼女が選んだ現場は、人里離れた山奥にある大きなお屋敷。何とも言えない不気味さ満点の大きなお屋敷です。。
携帯電話も使えないほど、孤立した超山奥にある。この時点で逃げられない、助けを求めることが安易でないことがすぐにわかります。
そこですでにこの仕事に従事している先輩方(明るく優しい引田、クールで淡々としている熊川)と出会い、一通りの説明を受けたあと、ようやく利用者であるこのお屋敷の主、妃倭子さんと対面するのですが。。。
この一通りの説明が、通常の介護では考えられない違和感を残したまま、対面の場面へとつながっていくのです。
その【絶対に守ってほしい3つのルール】とは、
①常にマスクと手袋を着用すること
②妃倭子さんに光を当てないこと
③絶対に顔を見ないこと
①は感染対策として重要なことは誰でもわかります。②に関しても光刺激に過敏であったり、光が病状に影響することはあり得るので、まあわかります。問題は③です。顔を見ないで介護なんてありえません。
顔色や表情を見ながらコミュニケーションをとって介護をしていくことが求められるこのお仕事。それなのに、顔を見てはいけないとはどういうことでしょうか。この時点で、普通ではない、とてつもない秘密や恐怖感が漂ってきます。
茜も「大丈夫です」って笑顔を見せ自身の看護師経験がきっと活かせると信じています。でも、もはやこの時点で読者は違和感を感じているはずですし、先輩のほほえみさえも、不気味に感じてしまうのは私だけではないはずです。
妃倭子さんの状態と必要な介護

この不気味なお屋敷に住んでいる利用者、宮園妃倭子さんは32歳の女性です。
原因不明の難病で要介護度は最重度である要介護5と認定を受けているようですが、看護師経験がある茜もまるで想像できないような、妃倭子さんの姿がそこにあったのです。
※この物語は、虫が多く出てきたり、グロテスクでホラー要素が強い描写が多いので苦手な人はこの先には進まないほうが良いかもしれません。
イラストだけでも、吐きそうなほどの悪臭や雰囲気がどうしても伝わってきてしまうのです。
思い扉を開けた先はまるで闇。
光を当ててはいけないとは説明されていたものの、電気もついていず、ろうそくを持って中に入ります。入ると聞こえるのはブブブ。。と聞こえる謎の音、そして多数のハエ取り棒、もうこの時点でおなか一杯になりそうなほどグロくなってきます。
進んだ先に横たわっている妃倭子さんの姿を見て、茜は息が止まりそうになったことでしょう。
看護師経験があるからこそ感じる、異常さ。
ハエが集るほどの独特の腐敗臭、指、関節の固まり具合、血の気のないどす黒い肌、そして顔には麻袋が被さっています。
顔を見てはいけない。
顔を隠すように、麻袋で包まれているため、眼球などは確認できません。
茜は、妃倭子さんは死んでいるのではないかとすぐに感じます。(私も感じました。)
そして、介護?という名の恐ろしい儀式が始まるのです。
その儀式ともいえる異常な食事介助は、
なんと、口を医療器具を使って無理やり開け、すりつぶした生肉を流し込むというもの。
ここで、もし妃倭子さんが亡くなっているのであれば食事を摂取することはないでしょう。無理やりでも、生命を維持しなければならない理由があるのだと予測されます。
そして、清拭。
普通、毎日のように清拭をしていればある程度の清潔が保たれるので、ハエが集まるなんてことはあり得ません。ここでも、死んでいるのでは?という疑問が消えませんが、言われるがまま茜は【介護】を続けるのです。
妃倭子さんの正体とは?

まず、死体のように思われる妃倭子さんは、死んでいません。
妃倭子さん自身に意思がないように見えるため、死んでいるといっても過言ではないほどですが、死ぬことはできず、生かされています。
妃倭子さんの正体とは、ずばり【鬼子母神(きしもじん)】。
鬼子母神とは日本の民間伝承で言い伝えられている存在です。お屋敷がある山がキシモ山と呼ばれていたことも、一つのヒントだったようです。
鬼子母神は、子を食らう鬼であったものが、ブッタに諭されて安産と子育ての守護神となったという深い物語を持っている、神様です。本当は、怖い鬼ではなく、強い母性を持っていた裏返しなのではないでしょうか。どちらにせよ、【母性】がこの物語のテーマとなっているのです。
絶対に守るべき3つのルールは妃倭子さんの正体への伏線だった

先ほど述べた絶対に守るべき3つのルールは、どれも妃倭子さんの体内に寄生する【何か】から守るべき、重要な約束でした。
表面的な感染対策は、体内に潜む恐ろしい何か、からの感染を防ぐため、そしてその何かがその状態を維持するために。
妃倭子さん自身が光を浴びてはいけない病気ではなく、体内に潜んでいる物体が光を弱点としているから。
彼女の顔には、その正体を映し出す恐ろしい変化が描かれているのでしょう。その真実を露わにしないために他なりません。
登場人物の秘密
主人公 栗原茜
彼女が抱えていたトラウマとは【流産した過去】のこと。そして、その相手は実は妻子持ちだった。その一連の出来事から職場に悪いうわさが流れてしまい、結果、退職に追いやられてしまいました。本当は幸せな母性を持つはずだった茜が、妃倭子さんとかかわり、この物語が進んでいくことでどう心情が変化していくのか。そこが重要なカギとなります。
先輩介護士 引田と熊川
明るく優しい引田と、冷淡で攻撃的に見える熊川、この二人はこの異常なまでの介護を、なんとか続けてきた強者。。というと少しきれいに聞こえるかもしれませんが、二人ともこの表面的な態度は、感情を押し殺して作り上げてきたキャラクターにすぎません。
この二人はそれぞれの視点から、茜がどこまで介護を続けられるのか、信用できる人物なのかを、じっくり見極めているのです。
熊川は実はこの物語のかなり重要な人物で、仮面の下には序盤では予測できない【復讐者】という肩書が描かれていました。
介護利用者 宮園妃倭子
体内に鬼の幼体を持つ介護利用者、妃倭子さん。死体とも思われるその肉体には、鬼が繁殖するための生きた苗床となっていたのです。その苗床を維持するために、<介護>が続けられていたのです。
広都くん
妃倭子の息子さん。耳が不自由だが、茜に手話を教わり少しずつコミュニケーションがとれるようになる。一部の秘密を知っている存在。
登場人物すべてが、一筋縄ではいかない、謎に包まれた人物達でその一人一人の存在が、結末への伏線となっています。
屍介護の結末

すべての真相を知った主人公は、鬼と苗床、この連鎖に終止符を打つために、お屋敷に火を放ちすべてを消し去るという最終手段を決行します。
燃え上がる炎のなか、壮絶な戦いが繰り広げられますが、結果として茜は敵を、鬼を倒すことに成功し、とらわれていた広都くんを救い出すことができたのです。
これですべてが終わり、幸せな結末が用意されているはず、、、
ではありませんでした。
この一連の事件の元凶であった存在は、実は炎の中でも消えていず、生き延びていたのです。
その存在は、しっかりと茜を認識しており、次の物語へと続いていく、不気味な音を残したまま、一旦終わりを告げました。
屍介護ネタバレまとめ

屍介護は、生きているのかすらわからない介護利用者妃倭子さんの存在と、序盤のグロテスクな描写、理解できない介護という現場から始まり、、
最終的には妃倭子さんの正体は【寄生された鬼】であり、最後には焼かれてしまうという結末をたどります。
簡単に表現するとこのような文章になってしまいますが、この物語はただのホラーやグロテスクな漫画、、ではなく、そこには深い愛情や母性、計り知れない登場人物の心の動きが繊細に表現されています。
この物語を読み終えた頃、あなたの中の母性という名の認識が大きく変わるかもしれませんね。
そして、ここに描かれている介護は実際にはあり得ないことがほとんどです。
ただ、食事や清潔、生きるための行動を、生活全般を支える介護は決して楽なものではなく、
お互いに心が動かされ、時に奮闘し嫌になって逃げだしたくなることもある、そんな部分は僅かながらに重なる部分もあるな、と感じました。

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